飛ばない理由 「流骨」 story

「見えないけれど確かにあるもの。実に美しいもので、この世界は満たされているようだ」
ーある罹患者の手記より抜粋。

間、底に落ちて初めてわかることもあるようだ。


世界から「気力」というものが失われていたことに人類が気づき始めた時には、すでに手遅れだった。


最近の若い者は、と幾世代も語られた文句を使うことで、本質が見えなくなっていたのだろう。恋愛、労働、自己肯定。そういった「前向きな気」が世界規模で失われてしまったのだ。


経済は衰退し、文化は停滞し、人口は減少し続けた。精神罹患者を修養する施設は、いたるところにみられた。
 


まだ気力の残った老人と、幾人かの奇跡的に「気」を保っていた若者は、この危機を回避するべく行動を開始した。

「気」を可視化し、足りないものに再分配することを可能にした彼らは、その技術を結集させ、回収船「流骨」を作りあげた。


樹齢数万年ともいわれる巨木を中心に船体を組み、木自体をレーダーにすることで「気」の効率の良い回収を目指したのだ。

 


あらゆる動植物から発せられる「気」を左舷の「スポイト」から採集し、右舷の「管」に蓄え、その「気」をごく少量使うことで飛行した。(スペック上では「気」を一気に放出し、対象を破壊できた。これは「元気玉」と呼ばれたが、使用された形跡はない)

 


一度の飛行で数万人分の「気」を回収でき、固形物に変えられた「気」は、世界の若年層に優先して配分されていった……

止まっていた世界は動き出した。
いつか、この老木も役目を終える日が来るのだろう。


開発者の一人である老人は、散歩の最中、大空を飛ぶ「流骨」を見た。
彼はそっと手を合わせると、しばらくそこに立ち尽くしていた。

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