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育ち たがる金属Vol,6 「無貌」

彼はずっと一人だった。


伝えたくても声がない。
泣きたくても涙がない。
ぎしぎしきしむ身体を引きずって、
呼ばれるようにさまよい歩く。

生まれたときは覚えていない。
ただ寒さと轟音があっただけだった。
捻じ曲げられ、沈められ、切り刻まれ、
苦しくて、自分がどこにいればいいのかわからなくて、
ただ歩き出した。
どこかに自分を認めてくれる存在がいるんじゃないかと。
寒い世界に期待を込めて。



「基地はもう駄目だ。研究対象が……アレが暴走して……みんななくなっちまった!」
極北の軍事基地、爆発、煙が立ち込める中、命からがら抜け出した男は、なんとか本国に通信を送った。
助けてくれ、そう言おうとした男は息を飲む。
ギリギリと金属が削れる音を立てながら、巨大なヒトが影を落とす。
間一髪、さっきまで身体を寄せていたところは瓦礫にかき消された。
”アレ”の触手に触れたものは熱を発し、たちまち崩れ落ちてしまう。
「誰か、誰でもいいからなんとかしてくれ」
か細い声は吹雪にまざり、宙に漂った。

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